インプラント周囲炎で困っている人はどのくらいいるの?
インプラントが広く行われるようになって年月が経ちましたが、ではいったいどのぐらいの方が日本ではインプラント周囲炎に苦しんでいるのでしょう?
行きつけのレストランのオーナーが、
「数年前にフェラーリ買えるぐらい治療費かかってインプラント治療受けたのだがその後その歯科医院ではメインテナンスをしていない。クルマでもメインテナンス必要なのにインプラントはメインテナンス必要ないの?」
ビックリして「勿論必要だよ」と答えた。
それにしてもフェラーリが買えるほど治療費を取っていてメインテナンスせずにインプラント処置をする歯科医院があるなんて。その後数年して当院に来院したときにはすでに手遅れだった。
インプラントは、何らかの原因で歯が抜かれその代替として用いられます。
日本人の歯を失う原因の7割は虫歯か歯周病です。40歳までは虫歯が抜歯原因の第1位ですが、40歳を過ぎると歯周病が抜歯の主原因になります。
虫歯も歯周病も共に歯についた細菌性プラーク(歯垢)によって引き起こされるある種の感染症で、適切な治療をせずにしておくと歯を失うことになります。その治療方法は現在では確立しています。
さて虫歯や歯周病で歯が抜かれ、かわりにインプラントによって咀嚼が回復され、見た目がきれいになったとしても、口の中は虫歯や歯周病になりやすい環境である事にかわりはありません。
残っている歯を再び虫歯や歯周病で失わないようにメインテナンスをしていく事は必須です。
スウェーデンのAxelsson先生らの30年に及ぶ長期研究報告の研究によれば、虫歯や歯周病の治療後、定期的にメインテナンスを行った患者では、それらの再発は30年間ほとんどありませんでした。(*1)
歯についた細菌性プラーク(ミュータンス)が糖分を分解した時に出る酸により歯が溶けてしまうのが虫歯です。当然、人工物のインプラントにプラークがついても虫歯にはなりません。
しかし、インプラントにプラークがつくと天然歯における歯周病と同じようにインプラント周囲に病変が起こります。
最初は歯肉炎と似たインプラント周囲粘膜炎という段階で、これはインプラント周囲のクリーニングで治癒が可能ですが、インプラント周囲炎といって骨まで感染が及んでしまうと今のところ確定的な治療が見つかっていません。(*2)
放置しておくとせっかくのインプラントを除去しないといけないことになってしまいます。
インプラントも天然歯と同じように表面についた細菌により病気が進行していきます。
また歯肉炎が進行し歯周炎となるように、インプラントも粘膜炎からインプラント周囲炎へと進行します。
歯周炎は歯の周りから細菌をとれば治りますがインプラント表面は溝があるため感染がとりきれないので治療が困難です。
インプラント周囲炎にならないように、あるいは病変の初期段階で発見、対応できるように定期的にメインテナンスをしていく事が必要です。
インプラント周囲病変を放置しておくと時にインプラントを除去せざるをえない状況にまで進行してすることがあります。
さてインプラントで支えられたブリッジ(インプラントをいくつか土台にして橋渡しをするように歯を補う方法)はどのぐらいもつのでしょうか。
スイスのPjetursson先生ら報告によると、インプラントに支えられたブリッジの
※生存率 は 10年で 86.7%
※成功率 は 5年で 61.3%
とのことでした。(*3)
思ったよりインプラントのトラブルは多いようです。その多くは機械的な問題(上部構造が壊れたり、外れたり)でした。
最後にもう一度まとめると、
以上の3点よりインプラントにもメインテナンスは必要です。
私がイエテボリ大学大学院に留学していた1990年代にはすでにはトレーニングされた専門の歯科衛生士によってインプラントのメインテナンスは徹底的に行われていました。
インプラントのメインテンスの間隔は残存するご自身の歯を守るためにも天然歯同様3ヶ月に1度のペースが理想的でしょう。
また何かトラブルが起きた時に対応しやすいよう、ネジ止めタイプのインプラントの方が望ましいでしょう。
虫歯や歯周病に感染するリスクは人として生まれたからには避ける事はできません。
しかし、インプラントを埋入しなければインプラント周囲炎等のリスクは生じません。
ひとたびインプラント治療が施された際には細やかなメインテナンスを行いインプラント周囲炎をはじめとするトラブルが生じないよう努力していく事が大切になります。
施術する歯科医師の技術や知識あるいはクリニックの設備も大切ですが、インプラントを長期に維持するためには、術後のメインテナンスを提供しているクリニックで治療を受けることをおすすめいたします。
また、すでにインプラント治療を受けていてメインテナンスチェックを受けていない患者さんはぜひ早期にメインテナンスを行っているクリニックに受診しましょう。
インプラントが広く行われるようになって年月が経ちましたが、ではいったいどのぐらいの方が日本ではインプラント周囲炎に苦しんでいるのでしょう?
歯周病が歯面にそって進行するように、インプラント周囲の炎症も放っておくとインプラントに沿って感染が進行し、インプラントを支えている骨が喪失します。この状態がインプラント周囲炎です。
虫歯や歯周病で歯が抜かれ、かわりにインプラントによって咀嚼が回復され、見た目がきれいになったとしても、口の中は虫歯や歯周病になりやすい環境である事にかわりはありません。残っている歯を再び虫歯や歯周病で失わないようにメインテナンスをしていく事は必須です。