Dr.弘岡の情報羅針盤

第1回:インプラント周囲炎で困っている人はどのくらいいるの?
第2回:インプラント周囲炎ってなに?
第3回:インプラントもメインテナンスは必要か?

Point1 : 残っている歯を守る為に必要
Point2 : インプラントの感染を予防する為に必要
Point3 : インプラントのトラブルを防ぐ為に必要

前書き

行きつけのレストランのオーナーが、

「数年前にフェラーリ買えるぐらい治療費かかってインプラント治療受けたのだが
その後その歯科医院ではメインテナンスをしていない。
クルマでもメインテナンス必要なのにインプラントはメインテナンス必要ないの?」


ビックリして「勿論必要だよ」と答えた。

それにしてもフェラーリが買えるほど治療費を取っていて
メインテナンスせずにインプラント処置をする歯科医院があるなんて。
その後数年して当院に来院したときにはすでに手遅れだった。

インプラント周囲に排膿、X線上で骨の喪失が見られる。
隣のインプラントと切断すると容易にインプラントは除去できた。
除去後炎症部位を掻爬した。




インプラントは、何らかの原因で歯が抜かれその代替として用いられます。

日本人の歯を失う原因の7割は虫歯か歯周病です。
40歳までは虫歯が抜歯原因の第1位ですが、
40歳を過ぎると歯周病が抜歯の主原因になります。

虫歯も歯周病も共に歯についた細菌性プラーク(歯垢)によって
引き起こされるある種の感染症で、
適切な治療をせずにしておくと歯を失うことになります。
その治療方法は現在では確立しています。

【図1】
8020推進財団・全国抜歯原因調査 改変(2005)
日本人の場合、7割が虫歯か歯周病、
つまり歯に付いた細菌性プラークが原因で歯を失っています。




歯を守るためにメインテナンスは必須

さて虫歯や歯周病で歯が抜かれ、
かわりにインプラントによって咀嚼が回復され、
見た目がきれいになったとしても、
口の中は虫歯や歯周病になりやすい環境である事にかわりはありません。

残っている歯を再び虫歯や歯周病で失わないように
メインテナンスをしていく事は必須です。

スウェーデンのAxelsson先生らの
30年に及ぶ長期研究報告の研究によれば、
虫歯や歯周病の治療後、定期的にメインテナンスを行った患者では、
それらの再発は30年間ほとんどありませんでした。(*1)



インプラントにもメインテナンスが必須

歯についた細菌性プラーク(ミュータンス)が
糖分を分解した時に出る酸により歯が溶けてしまうのが虫歯です。
当然、人工物のインプラントにプラークがついても虫歯にはなりません。

しかし、インプラントにプラークがつくと
天然歯における歯周病と同じようにインプラント周囲に病変が起こります。

最初は歯肉炎と似たインプラント周囲粘膜炎という段階で、
これはインプラント周囲のクリーニングで治癒が可能ですが、
インプラント周囲炎といって骨まで感染が及んでしまうと
今のところ確定的な治療が見つかっていません。(*2)

放置しておくとせっかくのインプラントを
除去しないといけないことになってしまいます。

インプラントも天然歯と同じように
表面についた細菌により病気が進行していきます。

また歯肉炎が進行し歯周炎となるように、
インプラントも粘膜炎からインプラント周囲炎へと進行します。

【図2】
弘岡 秀明、石川 基 (2010)インプラント周囲へのプロービングを再考する5
エピローグ 歯界展望 116-6, 1058-1073.から引用改変



歯周炎は歯の周りから細菌をとれば治りますが
インプラント表面は溝があるため感染がとりきれないので治療が困難です。

インプラント周囲炎にならないように、
あるいは病変の初期段階で発見、対応できるように
定期的にメインテナンスをしていく事が必要です。

インプラント周囲病変を放置しておくと時に
インプラントを除去せざるをえない状況にまで進行してすることがあります。




インプラントで支えられたブリッジの生存率、成功率

さてインプラントで支えられたブリッジ
(インプラントをいくつか土台にして橋渡しをするように歯を補う方法)は
どのぐらいもつのでしょうか。

スイスのPjetursson先生ら報告によると、
インプラントに支えられたブリッジの

※生存率 は 10年で 86.7%
※成功率 は  5年で 61.3%

とのことでした。(*3)
思ったよりインプラントのトラブルは多いようです。
その多くは機械的な問題(上部構造が壊れたり、外れたり)でした。

※生存率
インプラントが抜け落ちなかった割合
欠けたり炎症を起こしても口の中に残っていれば生存とされる

※成功率
インプラントが口の中に残り、かつ欠けたり炎症を起こさなかったものの割合

機械的なトラブルを未然に防ぎ、
また何か起こった際には早期に対応する為にも
定期的にメインテナンスをしていく事が必要です。



まとめ

最後にもう一度まとめると、

1.残っている歯を守る為
2.インプラント周囲炎にならない為
3.インプラントのトラブルを防ぐ、または早期に発見、対応する為


以上の3点よりインプラントにもメインテナンスは必要です。

私がイエテボリ大学大学院に留学していた1990年代には
すでにはトレーニングされた専門の歯科衛生士によって
インプラントのメインテナンスは徹底的に行われていました。

1990年当時、歯周病科のインプラント担当の歯科衛生士
Gunilla Kochさん。現時も活躍中



当クリニックでもスウェーデンでトレーニングされた歯科衛生士により
スペシャリストクリニックと同質のメインテナンスを提供しています



インプラントのメインテンスの間隔は残存するご自身の歯を守るためにも
天然歯同様3ヶ月に1度のペースが理想的でしょう。

また何かトラブルが起きた時に対応しやすいよう、
ネジ止めタイプのインプラントの方が望ましいでしょう。

虫歯や歯周病に感染するリスクは
人として生まれたからには避ける事はできません。

しかし、インプラントを埋入しなければ
インプラント周囲炎等のリスクは生じません。

ひとたびインプラント治療が施された際には
細やかなメインテナンスを行い
インプラント周囲炎をはじめとするトラブルが生じないよう
努力していく事が大切になります。



インプラント治療をこれからあるいはすでに受けている方へ

施術する歯科医師の技術や知識あるいはクリニックの設備も大切ですが、
インプラントを長期に維持するためには、
術後のメインテナンスを提供しているクリニックで
治療を受けることをおすすめいたします。

また、すでにインプラント治療を受けていて
メインテナンスチェックを受けていない患者さんは
ぜひ早期にメインテナンスを行っているクリニックに受診しましょう。


第1回:インプラント周囲炎で困っている人はどのくらいいるの?
第2回:インプラント周囲炎ってなに?
3回:インプラントもメインテナンスは必要か?


弘岡氏×セリーノ氏 Special Inteview シリーズ

Dr. Hirooka × Dr. Serino  Peri-implant disease Ⅰ
「インプラント周囲病変 多発要因と上部構造」




Dr. Hirooka × Dr. Serino  Peri-implant disease Ⅱ
「インプラント周囲病変 治療法と予防対策」




Dr. Hirooka × Dr. Serino  Peri-implant disease Ⅲ
「インプラント周囲病変 対処法とトレーニング」




Dr. Hirooka × Dr. Serino  Peri-implant disease Ⅳ
「インプラント周囲病変 治療計画とフォローアップ」



参考文献

*1
J Clin Periodontol. 2004 Sep;31(9):749-57.
The long-term effect of a plaque control program on tooth mortality, caries and periodontal disease in adults. Results after 30 years of maintenance.
Axelsson P, B, Lindhe J.

*2
J Clin Periodontol. 2008 Sep;35(8 Suppl):316-32.
Surgical treatment of peri-implantitis.
Claffey N, Clarke E, Polyzois I, Renvert S.

*3
Clin Oral Implants Res. 2004 Dec;15(6):625-42.
A systematic review of the survival and complication rates of fixed partial dentures (FPDs) after an observation period of at least 5 years.
Pjetursson BE, Tan K, Lang NP, U, Egger M, Zwahlen M.



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