歯周組織再生治療
歯周組織再生療法とは?
一度歯周病で失われた歯周組織を再生して抜歯予定の歯を保存することが可能になりました。
歯周病が進行すると、歯を支えている歯根膜や歯槽骨といった歯周組織が破壊されます。歯周病治療として細菌をポケット下から除去することにより、歯周組織の健康は取り戻せますが、ひとたび失われた歯周組織は自然には元の状態へ戻ることはありません。
しかし、歯周組織の破壊の程度が局所にとどまっている段階であれば、歯周組織を再生させる方法を取り入れて歯を残すことが可能です。
現在日本で認可されている歯科材料を使った歯周組織再生法は以下の2つです。
- GTR法
- エムドゲイン®療法
GTR法は、人工膜を歯肉と他の歯周組織(歯根膜・歯槽骨)の間にいれる方法、エムドゲイン®療法は、歯根にジェル状の薬剤を塗る方法で、いずれも歯周組織の再生を促します。
虫歯と並んで歯を失う疾患の一つである歯周病の治療では、原因であるプラークを取り除いて、歯周組織(歯肉、歯根膜、歯槽骨、セメント質)の炎症を抑え、再発を防ぐことが基本となります。
そこで、プラーク除去として歯周ポケットの細菌を取り去る「スケーリング」(歯石除去)、壊死したセメント質を除去し、歯根をなめらかにする「ルートプレーニング」や、抗生物質の使用や外科手術などが行われ、さらに再発予防として、日頃から正しいブラッシングにより細菌の繁殖を抑える、というのが一般的な方法です。
ただし、炎症が歯肉縁下深部におよび、歯周組織が破壊されてしまった場合、これだけの治療では万全と言えません。そのまま放置しておくと、破壊された歯周組織のうち歯肉だけが再生し、プラーク除去後の空洞部分や、歯槽骨、歯根膜、セメント質の欠損部分を埋めてしまうからです。
歯を支えるためには、4つの組織がバランスよく再生しなければならないのですが、その方法がなかった当時は、せっかく治療を受けても、咀嚼がうまくいかない、歯が伸びているように見えるなど様々な問題が残っていました。
これらの問題を解決する治療法として、1982年に歯科先進国スウェーデンで歯周組織再生療法が登場しました。現在、日本において認可されている失われた歯周組織を再生させる、歯周病の画期的な治療法としてGTR法とエムドゲイン®療法が挙げられます。
歯周組織再生療法の流れ
比較的軽度の段階の歯周病であれば、歯や歯の周りを清潔に保つ治療を続けることで治すことができます。しかし、炎症が歯肉の奥まで進行し、歯周組織の破壊がひどい場合には、歯周組織を回復させるための手術(歯周外科手術)が必要となります。
この手術の際に、GTR法やエムドゲイン®療法といった歯周組織再生誘導材料という手術治療を補助するための、歯科用の材料が使われます。GTR法、エムドゲイン®療法ともに外来で受けることができますが、それぞれ特徴があります。
エムドゲイン・ゲル(歯周組織再生誘導材料)を用いた治療方法
エムドゲインは、スウェ-デンのビオラ社で開発された歯周組織再生誘導材料です。
エムドゲインの主成分(エナメルマトリックスデリバティブ)は、子どもの頃、歯が生えてくるときに重要な働きをするタンパク質の一種です。
歯周外科手術の際に、手術部位にエムドゲインを塗布することにより、歯の発生過程に似た環境を再現します。こうして、初めて歯が生えたときと同じような強固な付着機能をもつ歯周組織の再生を促すのです。
エムドゲイン療法の手順
Step1 手術の前に
歯周組織の状態を調べるために、歯周ポケットの深さを計ったり、レントゲンを取ったり、その他治療に必要な検査を行います。エムドゲインを使った治療が行えるかどうかは、歯周病の程度や患者さんの健康状態によっても異なります。
Step2 歯周外科手術
手術は抜歯をするときのように麻酔をかけて行います。まず最初に治療する部分の歯肉を切開し、剥離します(図1~2)。次に歯根表面の清掃を行い(図3)、エムドゲインを塗布します(図4)。最後に切開した歯肉部分を縫合し(図5)、手術は終了です。
手術にかかる時間は約1時間前後で、手術後、しばらく休んでいただいた後は帰宅できます。抜糸は手術日から2~6週間後に行います。術後3~6週間で歯周組織が再生されてきます。
このように愛する家族を守るためにも、ご自身の口腔内を清潔に保つことはとても大切なことなのです。
GTR法を用いた治療方法
GTR法は歯周組織が破壊されて空洞になった部分の歯肉上皮の下へ人工の膜を挿入する治療法です。人工膜を入れることにより、歯肉上皮の増殖が抑えられ、代わりにセメント質や歯槽骨が再生されるのです。
しかし、この治療法は歯周組織が再生されてから(4~6週間後)もう一度切開して人工膜を取り除く手術が必要です。(歯周病治療において、唯一いわゆるリエントリー手術が必要となる術式です)
GTR法の手順
まず、歯肉を切開して縁下のプラークを取り除きます。この状態では歯周組織が破壊された部分は空洞になっています。そのまま放置すると、歯根の表面に向かって歯肉の上皮だけが増殖し、空洞部分や歯根膜、歯槽骨、セメント質の欠損部をふさいでしまうのです。
そこで、歯肉上皮の下に人工膜を入れて空洞部をカバーし、その増殖を阻止することで膜下の組織再生をはかります。4~6週間後、再び手術を行って膜を取り出します(上図参照)。
しかし、この方法の欠点は、膜を取り去るために、2回手術が必要なことと、挿入する膜が人体にとって異物となるため免疫反応が起こり、逆に雑菌が繁殖する可能性が出てくることが挙げられます。
そこで手術が1回で済むように、4~6週間後、自然に溶けて組織に吸収されてしまう膜も開発され、実用化されています。
歯周再生療法を成功させるために
上記の手術が終わったのちの心がけが効果を左右します。
健康な歯周組織を取り戻すには、数か月から1年かかります。また、歯周組織が再生する期間および程度は個人差があり、歯周病の進行具合によっても異なります。
したがって、治療後のスケジュールも患者さんによって異なりますので、担当医の指示に従い、治療が終わっても、必ず定期検査を受け、口の中の衛生状態をチェックしてもらってください。
治療が効果を発揮するのは、まさに治療後の口腔衛生環境の維持にかかっていると言えます。毎日正しいブラッシングを行い、感染を予防することこそ、健康な歯への第一歩です。
歯周再生療法を行うための前提条件
- 歯周疾患は細菌によって引き起こされる歯牙支持組織の感染症であることへの理解
- 正しいプラークコントロールの実践
- 治療の一部としてのメインテナンスの継続
手術後、6週間の注意事項
- 手術部分を傷つけないため、そこを歯ブラシやデンタルフロスで磨かない。また、指や舌で触らないようにする。
- 感染を予防するため、処方されたうがい薬で口の中を洗浄する。
- 禁煙を心がけ、歯や歯茎に負担がかかる硬いものを食べない。
- 歯科医療従事者による定期的な検査および歯面清掃をうける
このように良好な口腔衛生環境が保たれたもとで行われる歯周組織再生療法が確立された術式となったことで、以前は抜歯となっていた歯も一定の予後を見込んで保存できるようになりました。
これをふまえ、安易に抜歯を行い、インプラントによる治療を選択する前に、ご自身の歯を生かす歯周組織再生療法を選択肢の一つとして考慮してはどうでしょうか?